産業医だけでは不十分?!産業保健師によるメンタルヘルス強化

企業の労働環境を改善する上で、従業員のメンタルヘルス不調は、職場に悪影響を及ぼす原因の一つとなります。

今回は、従業員が安心して快適に働ける労働環境をつくりたいという経営者や総務人事部門の担当者に向けて、従業員のメンタルヘルス不調によるリスク、メンタルヘルスに関わりの深いストレスチェックの実施目的など、産業保健師導入のメリットなどを詳しく解説します。

 

目次

1.メンタルヘルスとは

 

 

「メンタルヘルス」とは、精神的、心理的健康状態で「心の健康」を意味します。

精神的、心理的な健康の回復、維持や増進と、それらにまつわる状況も指します。

メンタルヘルスを損なうと、物事に集中できなくなる、決断力が鈍るなど、精神的な症状が表れて業務に支障をきたします。

世界保健機関(WHO)では「自身の可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的かつ有益な仕事ができ、さらに自分が所属するコミュニティに貢献できる健康な状態」と定義しています。

最近は、「心身ともに充実した健康状態をめざそう」という意味で使われることが多く、メンタルヘルスの基礎知識は、マネジメント上の必要スキルになっていると言えます。

 

メンタルヘルス不調によるリスク

 

近年、過重労働や職場の人間関係によるストレスが原因で精神疾患を発症する人が増え、社会問題になっています。従業員のメンタルヘルス不調によって、どのような経営リスクがあるのか解説していきます。

 

①従業員のモチベーションの低下

 

メンタルヘルス不調になると、まず従業員の仕事に対するモチベーションが低下してしまいます。そもそも「心=脳」であり、メンタルヘルスが不調になるということは脳の機能低下を意味します。メンタルヘルス不調に伴い脳機能が低下すると、イライラする、人と関わりたくない、ものごとへの関心が薄れるといった症状があらわれます。

これらの症状が引き金となり、従業員によっては仕事に対する意欲がなくなります。

メンタルヘルスケアは、快適な職場づくりなどを、メンタルヘルス不調に陥った人だけでなく会社全体で行うことになるため、社員全体のモチベーションの維持につながり、生産性や活力の向上が期待でき、従業員の労働生活の質を高めます。

 

②ミス・トラブルの発生

 

メンタルヘルス不調は仕事へのモチベーション低下だけでなく、注意力や決断力の低下、倦怠感や睡眠障害などの身体障害も引き起こすため、業務の正確性や安定性に悪影響を及ぼします。

メンタル不調に陥る人は、もともと仕事に熱心で責任感の強い人であることが多いのも特徴です。そうした従業員がメンタル不調に陥ることは、貴重な戦力の喪失となり、仕事への根気が続かなくなり、重要な意思決定ができず、仕事にかかる時間が普段より増えるなどして、生産性が落ちることが考えられます。

 

③損害賠償責任を問われる可能性も

 

注意力・集中力が落ち、事故・トラブルにつながると、本人だけではなく、そうした不注意による影響は同僚や顧客にも及ぶ可能性があります。

もしも適切なメンタルヘルスケアが行われていなかった場合、使用者は安全配慮義務を怠ったとして、労災請求や訴訟を受けることにもなりかねません。

 

 

産業保健師と産業医の違いとは?

 

 

産業保健師とは

 

産業保健師とは、企業で働く保健師のことを意味します。

医療の知識を持ち、産業医よりも身近な存在として、従業員の健康管理や職場環境の改善、健康経営のサポートを行います。

産業保健師は、企業で働く従業員の健康維持や改善を目的としながら、産業医や人事担当者たちと共に企業で働く従業員の心身のメンタルヘルスケア、健康維持に取り組む役割を担っています。

 

産業保健師は、社内の人事部門や健康管理部門と協力しながら従業員の疾病予防、健康管理を担っており、具体的には定期健康診断の事後フォローや、健康にかかわるさまざまな情報発信などを行います。

最近はメンタルヘルス不調者への対応も産業保健師の主たる業務であり、面談のほか復職のサポートなども実施します。

 

産業保健師と産業医の違い

 

  産業保健師 産業医
必要資格

看護師国家資格

保健師国家資格

医師免許
主な業務内容
  • 怪我や体調不良時の対応
  • 従業員との面談、産業医への伝達
  • 健康診断結果のデータ管理
  • 社員への保健指導業務
  • 過重労働やメンタルヘルス対策
  • 休職者や長時間労働者との面談
  • 労働環境に対する指導
  • 健康管理(健康診断や面談など)
  • 就労制限、就労上の配慮や就労可否の判断
勤務体制

雇用条件により異なる

週5日常駐している場合が多い

嘱託産業医:月に1〜数回(1時間〜)

専属産業医:週に数日勤務

設置義務 設置義務なし 50人以上の従業員のいる企業は設置義務あり

 

産業医は設置が義務付けられる企業が多い一方、産業保健師は設置が義務付けられておりません。

一方産業医は、従業員数50名以上の企業で選任、さらに衛生委員会への出席や職場巡視が法的義務であり、違反した場合は罰則に該当するといった厳しい法的義務が存在します。

保健師は選任義務がなく、仮に選任・設置していなくても問題はありません。

ですが産業保健分野の手厚いフォローやより徹底した健康指導・保健指導など幅広い対応を行ううえでは、法令で義務付けられた産業医の選任に加えて、産業保健師の導入が欠かせません。

というのも、事業場の労働者数にかかわらず産業医の仕事は膨大なため、どうしても疲労やストレスが高い人への面談指導が優先されてしまいます。そのため、産業保健師は産業医の手が回らない労働者へもアプローチすることで、事業場の労働者全体の安全と健康を確保し、病気や怪我を予防することにつなげているのです。

 

 

メンタルヘルスケアに有効なストレスチェックとは

 

 

労働者の心理的な負担の程度を把握するための、産業医・産業保健師による検査(ストレスチェック)の実施が義務づけられています。

労働安全衛生法が改正され、2015年12月より、労働者数が50人以上の事業場では産業医・産業保健師によるストレスチェックを年に一回実施することが義務化されました。

 

「ストレスチェック」とは、労働者に対して、自分のストレス状況について気づきを与え、

メンタルヘルス不調のリスクを低減させるための一次予防を目的とした検査です。

事業者には、ストレスチェックで得られた調査結果をもとに集団分析を行い、メンタルヘルス不調者を出さない職場環境にするための改善が奨励されています。

 

対象者

毎年1回の実施と労基署への報告

頻度

常時使用する労働者が対象

契約社員、パート、アルバイトなどの非正規社員や派遣先の派遣社員も含まれます。

目的
  • 従業員にストレスへの気づきを促す(従業員が自身のストレス状態や精神的な疲労度を知る)
  • 結果を労働環境の改善につなげる(部門やチームごとに集計・分析し、必要に応じて労働環境の改善につなげる)

 

【ストレスチェック実施者とは】

 

事業者がストレスチェックを実施するには、「実施者」と「実施事務従事者」を決めることが必要です。

実施者(産業医など)とは、ストレスチェックの実施内容について専門的立場からの提案や助言、確認を行ったり、ストレスチェック結果の評価を実施したりする人です。実施者になれる人は医師、保健師、厚生労働省令で定める研修を修了した看護師、精神保健福祉士などです。

実施事務従事者(産業保健師など)とは、実施者の指示によって補助業務を行う人のことで、一般的には社内の衛生管理者やメンタルヘルス対策担当者、事務職員などが担当します。

 

【業務内容】

 

実施者(産業医など)の役割

  • 質問票の選定
  • ストレス度の評価方法、高ストレス者の選定基準の決定
  • ストレスチェックの結果に基づく医師との面接の必要性の確認(必須業務)
  • 面接指導の適性判断(必須業務)
  • 面接指導を希望した場合の適性の有無の確認
  • 面接指導を希望しない労働者への提言
  • 同意を得た労働者の検査結果を含めた検査結果の保存
  • 同意を得られなかった労働者の検査結果を含む検査結果の保存
  • ストレスチェック結果の事業場ごとの集団分析
  • 事業場ごとのストレスチェック結果の集団分析 ・集団分析結果の事業主への提供と助言

など

 

実施事務従事者(産業保健師など)の役割

  • 質問票の回収 (記入済みアンケートの回収、記入・入力内容の確認)
  • 集計・入力(記入済みアンケートのデータ入力、評価結果の出力、集団分析の実施と結果の出力)
  • 結果の封入・送付・通知(ストレスチェック対象者への通知、事業者への集団分析結果の提供)
  • 対象者への面接指導の推奨
  • 受検者との連絡・調整

など

 

【ストレスチェックにかかる費用】

 

ストレスチェックの実施は事業者の義務であり健康診断などと同じ福利厚生に含まれるため、実施にかかる費用は全て事業者負担です。

またストレスチェックの結果、実施者により高ストレス者と判定された労働者が医師による面接指導を受ける場合、面接指導にかかった費用も事業者が負担します。

 

主にかかる費用

  • ストレスチェックを行うための体制を作るため人件費(産業医の報酬としては、1時間当たり約5万円)
  • 実際にストレスチェックを依頼する際の費用
  • 高ストレス者への面接指導にかかる費用
  • 集団分析および職場改善にかかる費用

 

ストレスチェックに関係する助成金

 

従業員数50人未満の事業場が、医師・保健師などによるストレスチェックを実施し、医師による面接指導などを実施した場合に、必要のある要件を満たしていれば事業主が受け取れる助成金制度があります。

ストレスチェックの実施費用として従業員1人につき500円(実施人数分)と、ストレスチェックに携わった医師の活動費用として21,500円(1回の活動につき/上限3回)が受け取れます。

 

【ストレスチェック実施の流れ】

 

ストレスチェックは、以下のステップで実施します。

1.ストレスチェック制度の導入準備(実施従事者)

  • 衛生委員会での調査審議
  • 実施担当者の選定
  • 労働者への説明

2.ストレスチェックの実施(実施者)

  • 調査票によるストレスチェックの実施
  • データの集計

3.結果の通知面談指導(実施者・実施従事者)

  • 結果の通知
  • 医師による面接指導(本人が希望した場合)
  • 就業上必要な措置の実施

4.結果の保存・集団分析

  • 結果の保存・集団分析等
  • 就業上の措置の実施

 

 

産業保健師を導入するメリット

 

 

健康管理体制の構築

 

産業保健師を配置することで、産業医と連携しながら病気や職場内での怪我の予防やケアを行うため、よりきめ細やかな健康管理体制が確立できます。

産業医と産業保健師が協力しながら、業務を棲み分けて従業員の病気のケアや予防を行うことで、よりきめ細やかな健康管理体制が構築できます。

  • メンタル不調者の相談
  • 休職者の復帰支援

などの領域を産業保健師がカバーすることができます。また、産業保健師に衛生委員会に参加してもらうことで、よりレベルの高い内容を話しあうことができ、衛生委員の知識が深まります。各職場の健康管理体制も向上します。

 

産業医の負担を軽減できる

 

産業医の業務は多く、企業に常駐していないケースがあるため、従業員のメンタルケアやサポート業務などまで充分にカバーしきれないこともあります。

しかし産業保健師が常にいてくれれば、日頃から従業員からの相談を受けたりアドバイスを行ったりなど、健康予防の働きかけができます。

産業医の負担を軽減できるとともに、より緊急性のある業務や専門的な業務に集中できることが大きなメリットといえます。

 

職場の衛生環境作り

 

産業保健師が職場を巡視することで、従業員の健康に悪影響がある要因を特定し、職場環境の改善について助言することができます。

  • 職場の換気不足・温度や湿度
  • パソコンの位置・従業員の姿勢
  • コミュニケーション環境など

これらの健康を害する要因を産業保健師が指摘し改善することで職場の衛生環境づくりに役立ちます。

 

 

まとめ

 

いかがでしたでしょうか。

働くうえで従業員のメンタルヘルスケアは大切です。

ストレスチェックは企業におけるメンタルヘルス対策の中心となります。企業と従業員どちらにとっても明るい未来を切り開くために上手に活用し、この機会に産業医と産業保健師の見直しの導入を検討してみてはいかがでしょうか

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